行政書士試験における民法(2) 譲渡担保

はじめに

譲渡担保については何度もブログに書いています。
司法書士試験受験生時代に、自分で過去問研究をして克服した、思い出の項目だからです。
行政書士試験においても、ときどき出題されています。
記述式問題に出題されるような重要分野とはいえませんが、行政書士試験の民法においては、良く理解できている「得意な」項目を1つずつ増やしていくしかありませんので、できるだけ分かり易く書いてみます。

譲渡担保とは

抵当権のように、民法の条文で規定されている典型担保物権ではなく、判例や解釈によって認められている「非典型担保物権」です。
代表例を書くと、「債権者が、担保目的で債務者の財産権を譲り受け、債務者が弁済をしたら、その財産権を返還する担保方法」です。
設定時   : 債務者(設定者) → 財産権A → 債権者 (譲渡)
        債務者(設定者) ← 貸金 ← 債権者 (担保と引き換えに融資する)
債務弁済後 : 債務者(設定者) ← 財産権A ← 債権者 (返還)

譲渡担保でイメージすべき具体例と、出題される判例等

3つのパターンに分けて、イメージしましょう。(いずれも簡単にするため利息は考慮しない)

パターン1(担保物を現実に引き渡す)
(設定時)
債務者X → 宝石A(価値100万円) → 債権者Y 現実の引き渡し
債務者X ← 貸金80万円 ← 債権者Y
※通常、担保の価値以上には、貸しませんよね。
(質屋の質権と同じですが、いったん所有権が債権者に移ることが違います)

(返還時)
債務者X → 返済80万円 → 債権者Y
債務者X ← 宝石A(価値100万円) ← 債権者

(債務者が返済できないとき:譲渡担保権の実行)
債務者X ← 清算金20万円 ← 債権者Y(宝石Aを確定的に取得)

【出題される判例】
①債権者Yは、宝石Aの所有権を取得する。ただし、担保目的を超えては使用しないという拘束を受ける。
②債権者Yが、第三者Zに宝石Aを譲渡した場合、第三者Zは、善意悪意によらず、宝石Aの所有権を取得する。
③債務者Xの返済が先履行である。(宝石Aの返還の同時履行は主張できない)
また、債務者Xは、宝石Aの受戻権を放棄して、清算金20万円を請求することはできない。

パターン2(担保物を債務者がそのまま占有継続する)
(設定時)
債務者X → マンションの一室A(価値1000万円) → 債権者Y 占有改定
※例えば、マンションにはXが住み続けるが、X→Yへの所有権移転登記をする
債務者X ← 貸金800万円 ← 債権者Y

(返還時)
債務者X → 返済800万円 → 債権者Y
債務者X ← マンションの一室A(価値1000万円) ← 債権者
※マンションにはXが住み続け、Y→Xへの所有権移転登記をする

(債務者が返済できないとき:譲渡担保権の実行)
債務者X ← 清算金200万円 ← 債権者Y(マンションの一室Aを確定的に取得する)
※Xは退去するか、あらたに賃貸借契約等を結ぶ必要があるであろう

【出題される判例】
④譲渡担保権の設定は、占有改定でも第三者に対抗できる。(パターン2の定義そのまま)
⑤清算金の支払いがあるまで、債務者Xはマンションの一室Aを留置できる。(退去しなくて良い)

パターン3(担保物が集合動産であり、債務者が占有を継続)
(設定時)
債務者X → お店倉庫の商品群A(価値100万円) → 債権者Y 占有改定
債務者X ← 貸金80万円 ← 債権者Y

(返還時)
債務者X → 返済80万円 → 債権者Y
債務者X ← お店倉庫の商品群A(価値100万円) ← 債権者

(債務者が返済できないとき:譲渡担保権の実行)
債務者X ← 清算金20万円 ← 債権者Y(お店倉庫の商品群Aを確定的に取得)
※Xは、お店倉庫の商品群を現実にYに引き渡すことになるであろう

【出題される判例】
⑥構成部分の変動する集合動産でも、種類、所在場所、量的範囲の指定などの方法で、目的物の範囲が特定されるときは、1個の集合物として譲渡担保の目的物となる
(パターン3の定義そのまま)
⑦債務者Xが、通常の営業の範囲を超えて、第三者Zに個別の動産(商品)を譲渡(販売)した場合でも、その動産が集合物から離脱すれば、第三者Zがその個別の動産の所有権を取得する。(通常の営業範囲の商品の販売は当然にできます)
⑧例えば、お店が火災にあい、商品群が焼失して、火災保険金がおりた場合、債権者Yはその火災保険金に対して物上代位をすることができる。

行政書士試験における実際の出題

令和5年問題29

1 〇 ポイント⑥、ポイント④
2 〇 ポイント⑥
3 〇 ポイント⑥、ポイント⑦:通常の営業範囲の販売は当然できる
4 〇 難問
ポイント④:先に対抗要件(占有改定による引き渡し)を備えた譲渡担保が動産先取特権に優先する
5 ✖ 難問。
ポイント④:今度は、所有権留保特約が先なので、譲渡担保は優先されない

令和2年問題28

オ ✖ ポイント④

令和元年問題29

4 〇 ポイント④
5 〇 ポイント⑥

→ 行政書士試験では、「占有改定による引き渡しが、譲渡担保の第三者対抗要件になる」ことと、「倉庫の商品群など、目的物の範囲が特定される集合動産に、譲渡担保を設定することができる」ということが、よく出題されていますね。