成年後見人による成年被後見人の居住用不動産の売却
民法859条の3
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃借権の解除又は抵当権の設定その他これらに準じる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
不動産登記先例(平16.12.1-3554号、登研606号、779号)
破産管財人・相続財産清算人・成年後見人が、裁判所の許可を得て、破産財団に属する不動産を任意売却・相続財産である不動産を売却・成年被後見人の居住用不動産を売却する場合、当該不動産の所有権移転登記の申請には、登記義務者についての登記識別情報の提供は要しない。
→ 自分なりに意訳すると、裁判所の許可を受けているのだから、あらためて本人確認及び意思確認のための登記識別情報(権利証)の提供は不要ですよ、の意。
司法書士試験での出題例
・破産管財人が、破産財団に属する不動産を任意売却する場合において、所有権の移転の登記を申請するときは、申請人は、所有権の登記名義人に通知された登記識別情報を提供しなければならない(平7、18、24、30年等)
→ ✖
・相続財産清算人が、権限外行為について家庭裁判所の許可を得たことを証する情報を提供して、相続財産である不動産につき、相続財産法人を登記義務者とする所有権の移転の登記を申請する場合には、登記義務者の登記識別情報を提供しなければならない(平14、18年等)
→ ✖
実務で上記先例がすぐには思いつかなかった話
今回取り上げた条文、先例、過去問は、司法書士試験受験生であれば即答できる、というくらいの基本事項です。
ところが、実務ではじめて相対すると、すぐには気が付けなかった、という話です。
先日、成年被後見人の方の居住用不動産を、成年後見人の方が代理して売却する際の、所有権移転登記を受任しました。
(成年被後見人の方は、先立って、施設に移られています)
成年後見人の方に、後見の登記事項証明書、裁判所の許可書などを確認させて頂き、「それでは決済当日に登記識別情報の提供をお願いします」とお願いしたら、成年後見人の方から、「裁判所の許可書を提供するときは、登記識別情報は要りませよ」と教えて頂きました。
その瞬間、「ああそういえば、受験勉強したのは、このことだったのか」と初めて思い当たりました。
ちなみにその成年後見人は司法書士さんでした → ああ恥ずかしい!
今回の登記申請書例
登記の目的 所有権移転
登記の原因 令和〇年〇月〇日売買
申請人 権利者 (住所)A ←買主の方
義務者 (住所)B ←成年被後見人の方
添付書類 登記原因証明情報(売買契約内容を表示、成年後見人Xの認印)
印鑑証明書(成年後見人Xの印鑑証明書)
住所証明書(買主Aの住民票の写し等)
家庭裁判所の許可書(XがAに〇円で売却することへの許可がある)
登記事項証明書(XがBの法定代理人であることを証する)
Aの司法書士への委任状(Aの認印)
Xの司法書士への委任状(Xの実印)
← 本来提供が必要な、登記識別情報(権利証)の提供不要