令和5年度認定考査解答例

今年は、9月8日(日)に、司法書士の「簡裁訴訟代理等能力」認定考査がありますね。
受験をされる方は、そろそろ準備を始められるのではないでしょうか?
基本的には、「過去問さえしっかりやっていれば合格点は取れる」試験だと思いますが、一方で、勉強に利用する、過去問の模範解答がなかなか見つからない!(私もそうでした)と思いますので、ご参考になればと、記事にします。
もちろん、「模範解答」であるはずはなく、合格点+αは、多分取れているくらい、と思いますので、あくまでご参考です。

第1問の問題文の登場人物

「本件土地」に関する争い(現在、登記名義はAとなっている)
C(祖父:故人)-A(父:故人)-X(原告)
         B(父:故人)-Y(被告)
E(Yが主張するAの代理人)

第1問の問題文における原告・被告の主な主張

原告Xの主張
「本件土地」は私(X)が所有している。売却しようとして現地を確認したら、Yが勝手に駐車場として使用していた。私の所有なのだから明け渡してほしい。

被告Yの主張
1)Aは代物弁済で「本件土地」の所有権をBに移転している。よって、現在「本件土地」の所有者は私(Y)である。
2)Bは「本件土地」を占有し、B死亡後は私(Y)が占有を継続している。取得時効が成立しており、それを主張したい。

解答例

第1問

(1)訴訟物と個数 「所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権 1個」

(2)Xの請求の趣旨 「Yは、Xに対し、本件土地を明け渡せ」

(3)原告Xが主張すべき請求原因の主要事実(所有権に基づく土地の明渡し請求)
① Aは、平成10年3月24日、Cから贈与を受け、本件土地を所有した。
② Aは、令和2年9月11日、死亡した。
③ XはAの子である。
④ Yは、本件土地を占有している。

(4)被告Yが主張すべき抗弁の主要事実
1.Aは代物弁済によって本件土地の所有権を喪失しているとの抗弁
1⃣ AとBは、平成13年12月12日、期限を定めず、無利子で、50万円の金銭消費貸借契約をした。
2⃣ Bは、同日、1⃣に基づき、50万円をAに交付した。
3⃣ BとEは、平成14年7月1日、1⃣の弁済に代えて、本件土地の所有権を移転する合意をした。
4⃣ Eは、3⃣の際、Aのためにすることを示した。
5⃣ Aは、3⃣に先立って、Eに3⃣の代理権を与えた。
6⃣ Aは、3⃣の当時、本件土地を所有していた。
注記:代物弁済による所有権喪失の抗弁なので(債務消滅の抗弁ではないので)「引き渡し」や「登記手続き」の摘示は不要

2.AはYの時効取得によって本件土地の所有権を喪失しているとの抗弁
⓵ Bは、平成14年7月1日、本件土地を占有していた。
⓶ Bは、平成27年4月21日、死亡した。
⓷ YはBの子である。
⓸ Yは、令和4年7月1日経過時、本件土地を占有していた。
⓹ Yは、Xに対し、本日、本件時効を援用するとの意思表示をした。

(5)原告Xが主張すべき再抗弁の主要事実
抗弁2に対して、占有が所有の意思が無いもの(他主占有)で開始されたため取得時効は成立しないとの抗弁
❶ AとBは、平成14年7月1日、賃料:月10万円、期間:平成34年6月30日までとする、本件土地の賃貸借契約をした。

(6)Yは、「本件土地にXの登記名義がないこと」を、本件訴訟の抗弁として、主張することはできない。
(理由)所有権に基づく物権的請求権を行使することにおいて、登記を備える必要はない、とされているから。

(7)Xは、Yの抗弁1に対して、「Eは無権代理人である」ことを再抗弁として主張することはできない。
(理由)「無権代理」の主張は、抗弁ではなく、5⃣「Aは先立ってEに代理権を与えた」ことの「否認」であるため。

第2問(登場人物と状況は省略)

(1)訴訟物と個数「保証契約に基づく保証債務履行請求権 1個」

(2)原告が主張すべき請求原因の主要事実
① XとYは、令和4年2月1日、返還期日:令和4年12月1日、無利息にて100万円の金銭消費貸借契約をした。
② Xは、同日、①に基づいて、Yに100万円を交付した。
③ XとZは、同日、Zが①の債務を保証する契約をした。
④ ③の契約は書面でした。

(3)
① 原告代理人である司法書士が申し立てた保全処分 → 仮差押え
(理由)将来の金銭執行の保全のため

②保全命令が発令されるためには、「保全すべき権利又は権利関係」及び「保全の必要性」を疎明しなければならないとされる。
本件では「保全の必要性」として、Yに「資力」がないことをも疎明しなければならない。
その理由は、XはYから弁済を受けるのが本来の形態であること、Yに資力がある場合にあえてZに保全処分をするまでの必要はないからとされる。
Zの財産のうち、「不動産」を対象として保全処分をするためには、一般的に、本執行を待っていては「財産の散逸」(自信なし)するおそれがあることの疎明が必要であり、対象財産が「不動産」しか判明していないという程度では発令されないことが多いとされる。
また、本件ではZに「不動産」以外にも財産があることから、当該財産について、保全余力がないことを疎明しなければならない。
(全般にあまり自信ありません。。)

③本件で不動産に対して保全処分を行った場合の執行方法は、「仮差押え」「登記」をする方法又は強制管理の方法によって行うとされる。
「仮差押え」「登記」をする方法の場合、保全執行裁判所は、保全手続きの迅速性の観点から保全命令を発した裁判所となる。
これは本執行における執行裁判所が不動産の「所在地」を管轄する地方裁判所となるのとは異なる。
つぎに、本件で債権に対して保全処分を行った場合の執行方法は、「第三債務者」に対し、「債務者」に対する弁済を禁止する命令を発する方法により行う。
保全命令の効力が発生するのは、保全命令が「第三債務者」「送達」された時であり、実務上、「債務者」に対する「送達」は、「第三債務者」に対する「送達」から数日後にされている。

(4)被告となるべき者が所在不明の場合、送達は、公示送達の方法による。

第3問

(1)司法書士Qは、Zの訴訟代理人となることはできない。
(理由)当該事件について、すでに相手方Xと協議し、法的手段等を具体的に教示しているから。

(2)司法書士Qは、Zの訴訟代理人に、原則はなれるが、慎重に検討した方が良い。
(理由)司法書士Qが、Xから受任したのは、本件訴訟とは関係のないAに対する裁判書類作成業務であり、さらにその事件は終了している。
よって、本件訴訟に直接の利害関係は無く、原則としてQは、Zの訴訟代理人にはなれると考える。
一方で、本件訴訟の相手方Xも、過去に業務の依頼を受け、受任した「知り合い」であり、本件訴訟における公平性等を完全に保てるかよく検討した方が良い。