行政書士試験における民法(1)抵当権と根抵当権

行政書士試験における「物権」からの出題

令和5年度 所有権の取得時効、譲渡担保権
令和4年度 占有権、根抵当権
令和3年度 物権的請求権、留置権
令和2年度 各物権における占有改定の取扱い、根抵当権
令和元年度 動産物権変動、地役権・地上権・抵当権等、質権
平成30年度 抵当権

毎年出題されるというわけではないですが、今回は抵当権と根抵当権について、見ていきましょう。

1.抵当権

最も身近な例としては、住宅メーカーから土地付き一軒家を購入するときの住宅ローンがあります。

B銀行 → 3000万円 → A 住宅ローン借り入れ
A → 3000万円 → 住宅メーカー 売買代金支払
住宅メーカー → 「甲土地」「乙建物」 → A 引き渡し
Aが購入した土地・建物に、上記3000万円を被担保債権とした、「抵当権」を設定します。
B銀行:抵当権者  A:設定者兼債務者
・Aに債務不履行(返済の滞り)が無い限り、Aは甲土地・乙建物を占有し、使用することができます。
・Aに債務不履行があれば、抵当権が実行され、甲土地・乙建物は競売されます。

(1)抵当権の及ぶ範囲
・付合物(雨戸、入口扉、増改築部分、取り外し容易でない庭石・庭木)に及ぶ
・「抵当権設定時からの」従物(ふすま、障子、取り外し容易な庭石・庭木)に及ぶ

(2)物上代位性
・甲土地、乙建物 → 債務者が受け取るべきお金(保険金、賃貸料など) に変わった時、
 抵当権者はそれを差し押さえて、そこから優先弁済を受けることができる

(3)付従性
・B銀行 → 3000万円 → A の債権が成立しなければ、抵当権も成立しない
・B銀行 → 3000万円 → A の債権が消滅すれば、抵当権も消滅する

(4)随伴性
・B銀行 → 3000万円 → A の債権をC銀行に譲渡すれば、抵当権もC銀行に移転する
 C銀行 → 3000万円 → A となり、C銀行が抵当権者となる

(5)抵当権の被担保債権の範囲
・元本3000万円は当然に担保される(甲土地・乙建物の売価から優先弁済を受ける)
・利息、損害金は、「最後の2年分」に限定される → 他の債権者への配慮

(6)法定地上権(競売後の建物に地上権が当然に成立するもの)の成立条件
①抵当権設定時に、土地上に建物が存在する
②抵当権設定時に、土地と建物の所有者が同一である
③土地と建物の一方または双方に、抵当権が設定される
④競売により、土地と建物が、別々の者の所有となる
①~④を全て満たすとき、法定地上権が成立する

2.根抵当権

今度は、A株式会社とB銀行を思い浮かべましょう。
B銀行 → a融資、b融資、c取引、d取引 → A株式会社 種々の融資、取引による債権

〇〇融資、〇〇取引は、日々、発生し、消滅しますが、B銀行が各瞬間に有する最大債権額は3000万円くらいだとしましょう。
A株式会社が、「極度額3000万円」の担保として、甲土地を供して、根抵当権を設定します。(B銀行との設定契約)

担保として供する不動産:甲土地、根抵当権者:B銀行、設定者兼債務者:A株式会社

(1)元本確定前
極度額   3000万円(最大の債権額予定額のように理解すればよいです)
債権の範囲 銀行取引(実際は、a融資、b融資、c取引、d取引などが日々発生・消滅)
元本確定期日 〇年〇月〇日と定めても良い
(定めない場合、B銀行はいつでも、A株式会社は設定時から3年経過後から、確定請求できる)

1)付従性がない! 
・a融資債権が無効であっても、根抵当権に影響なし
・b融資債権が弁済で消滅しても、根抵当権は消滅しない
(∵他の取引が存在し、また新たに発生する可能性がありそれを担保するため)

2)随伴性が無い!
・a融資債権をC銀行に譲渡しても、根抵当権は移転しない
(∵他の取引が存在し、また新たに発生する可能性がありそれを担保するため)

(2)元本確定後
債権額 2850万円等 (3150万円等で確定した場合は極度額3000万円とされる)
→ 極度額よりも低い場合、「減額請求」できる
被担保債権 b融資債権、d取引債権、x融資債権、y取引債権
(元本確定時に、残存していた債権に特定する)

1)付従性がある(元本確定後根抵当権は抵当権と同じ)
・b融資債権、d取引債権、x融資債権、y取引債権を弁済して、債権が消滅すれば、根抵当権も消滅する

2)随伴性がある(元本確定後根抵当権は抵当権と同じ)
・b融資債権、d取引債権、x融資債権、y取引債権をC銀行に譲渡すれば、根抵当権もC銀行に移転する
C銀行が根抵当権者となる

3)根抵当権の被担保債権の範囲
・極度額を上限として、債権(元本、利息、損害金)の全額が担保されます。
(競売価額から、優先弁済を受ける)

根抵当権は、元本確定前の性質について特徴があり、抵当権との差異をしっかり理解することと、元本確定後は、ほとんど抵当権と同じ性質になる、という理解が問われます。

実際の出題において

令和4年度 問題29

1 〇 上記2(1)
2 〇 上記2(1)の〇〇取引は元本確定前は変更可能ですが登記を要します
3 〇 上記2(2)の「極度額」は、債権額が確定しているのですから、元本確定後の額に減額請求することができます
4 ✖ 上記2(2)3) 極度額が上限です
5 〇 上記2(1)2) 元本確定前根抵当権には随伴性が無く、対抗要件を備えた債権譲渡をしても、根抵当権は移転しないので、債権の譲受人は根抵当権を実行することはできません

令和2年度 問題29

1 ✖ 上記2(2)3)
2 ✖ 上記2(1)の〇〇取引は元本確定前は変更可能であり登記を要します。後順位抵当権者等の承諾は不要です。(極度額の増額をするときは優先弁済額に影響があるため後順位抵当権者等の承諾を要します)
3 〇 元本確定期日は、両者の合意で(5年以内の期日で)定めることができますが、登記を要します。
→ 根抵当権は、他の債権者がその登記に注目して、取引等を決定することが多いので、「登記をすること」が効力発生要件になることが多いです
4 ✖ 上記2(1)2) 随伴性が無く、「根抵当権は」移転しませんが、債権そのものは移転しているので、譲渡人が自分の被担保債権として根抵当権を実行できるわけないです
5 ✖ 上記2(2)の「極度額」は、債権額が確定しているのですから、元本確定後の額に減額請求することができます

平成30年度 問題30

1 ✖ 上記1(1) 従物について別個、抵当権の登記が必要なんてありえません
2 ✖ 上記1(1) 「借地権」が「従物にあたる」という判例は結構頻出です
3 〇 上記1(2) 買戻代金は、債務者が受け取るべきお金(価値変形物)にあたり物上代位できます
4 ✖ 上記1(2) 転借賃料は債務者が受け取るべきお金ではなく、転貸人が受け取るべきお金ですので、物上代位できません
5 ✖ 上記1(5) 抵当権の場合、他の債権者に配慮し、優先弁済を受ける利息・損害金は、最後の2年分に限定されます

令和元年 問題30 エ

エ ✖ 上記1(6)②の条件を満たしていないため法定地上権は成立しません