令和8年度司法書士試験より~第8問民法 占有~

令和8年度司法書士試験、民法第8問は、占有に関する問題でした。
正しいものの組合せを選ぶ問題で、正解は1(ア・ウ)です。
この問題も、条文を丁寧に読めていれば判断できる選択肢がほとんどです。
「主語は誰か」「誰が承諾するのか」といった条文の細かい文言に注目しながら、見ていきましょう。

ア 株式会社Aの代表取締役であるBが、株式会社Aの代表者として甲土地を占有している場合には、B自身のためにも所持するものと認めるべき特別の事情がない限り、Bは、甲土地の直接占有者たる地位を有しない。
→ 〇(代表取締役は、会社の機関として所持するにとどまる)

民法180条(占有権の取得)
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

民法181条(代理占有)
占有権は、代理人によって取得することができる。【/強調】

占有権は、自分で物を所持する場合だけでなく、代理人、つまり他人を通じて取得することもできます。
そのうえで、判例があります。

・株式会社の代表取締役が、会社の代表者として土地を占有している場合、その土地の直接占有者は株式会社自身であり、取締役は会社の機関(占有補助者)として所持するにとどまる(最判昭32.2.15)
⇒ B自身のためにも所持すると認めるべき特別の事情がない限り、Bは独立した占有者たる地位(直接占有者の地位)を有しない

会社は、自分では物を持てませんから、代表取締役を通じて占有します。
このとき、代表取締役は、会社の手足、つまり機関として所持しているにすぎません。
占有者は会社であって、代表取締役個人ではありません。
このように、独立の占有が認められない者を、占有補助者といいます。

イ A所有の甲建物をBが悪意で占有している間に、甲建物が台風で一部損壊したため、損壊部分の修繕費をBが支出した場合において、BがAに甲建物を返還するときは、Bは、Aに甲建物の修繕費用の償還をさせることができない。
→ ✖(必要費は、悪意の占有者でも償還させることができる)

民法196条(占有者による費用の償還請求)
①占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
②占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

第1項は必要費、第2項は有益費の規定です。
第1項の主語は、単に「占有者」です。
善意か悪意かで区別していません。
台風で壊れた部分の修繕費は、建物を保存するための費用ですから、必要費です。
悪意の占有者Bも、Aに償還させることができます。

では、悪意の占有者は、どこで不利に扱われるのでしょうか。
第2項ただし書です。
有益費については、裁判所が、回復者の請求により、相当の期限を許与することができます。
期限が許与されると、占有者は、留置権を主張して返還を拒むことができなくなります。
必要費は、善意・悪意を問わない。有益費は、悪意の場合に期限の許与がある。
この違いを押さえておきましょう。

ウ Aが、Bに対して甲絵画を賃貸借契約に基づき引き渡し、甲絵画について代理占有している場合には、賃貸借契約が終了したことのみによっては、Aの占有権は、消滅しない。
→ 〇(占有権は、代理権の消滅のみによっては消滅しない)

民法203条(占有権の消滅事由)
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

民法204条(代理占有権の消滅事由)
①代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
1 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
2 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
3 代理人が占有物の所持を失ったこと。
②占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。

Aは、賃借人Bを通じて、甲絵画を占有しています。
これが代理占有です。
Aが本人、Bが占有代理人にあたります。
代理占有が消滅するのは、204条1項の3つの場合です。
そして、第2項により、占有権は、代理権の消滅のみによっては消滅しません。
ここでいう「代理権」は、賃貸借や寄託など、代理占有の基礎となっている法律関係を指します。

占有は、物を事実上支配している状態を保護する制度です。
賃貸借契約が終了しても、Bが絵画を持ち続けている限り、AがBを通じて絵画を支配している状態は変わりません。
ですから、Aの占有権は消滅しません。

エ Aが、Bに対して甲絵画を賃貸借契約に基づき引き渡し、甲絵画について代理占有している場合において、Aが、Cに対して甲絵画を売却し、Bに対して以後Cのために甲絵画を占有することを命じ、Bがこれを承諾したときは、Cは、占有権を取得する。
→ ✖(承諾するのは、占有代理人Bではなく、譲受人C)

民法184条(指図による占有移転)
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

・指図による占有移転
:B(絵画を売主Aのために占有)→売主Aの意思表示と買主Cの承諾→B(絵画を買主Cのために占有)

本人が代理人に対して「命じ」、「その第三者がこれを承諾したとき」です。
承諾するのは、第三者、つまり譲受人のCです。
占有代理人Bの承諾は、要りません。
Bは、預かっている物を、誰のために占有するのかが変わるだけです。
不利益はありませんので、命じられるだけで足ります。
一方、Cは、これによって占有権を取得する本人ですから、Cの承諾が必要です。

「誰が承諾するのか」は、指図による占有移転の定番のひっかけです。
命じられるのは占有代理人、承諾するのは譲受人、と覚えておきましょう。

オ Aが所有し占有する甲絵画をBが窃取した後、Bが盗品であることを秘して窃取の事実を知らないCに甲絵画を売り渡した場合には、Aは、Cに対し、占有回収の訴えにより甲絵画の返還を求めることができる。
→ ✖(善意の特定承継人に対しては、占有回収の訴えを提起できない)

民法200条(占有回収の訴え)
①占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
②占有回収の訴えは、占有を侵奪した者(B)の特定承継人(C)に対して提起することができない。ただし、その承継人(C)が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

占有を侵奪した者が、絵画を盗んだBです。
その特定承継人が、Bから買ったCです。
占有回収の訴えは、原則として、特定承継人に対しては提起することができません。
例外として、特定承継人が侵奪の事実を知っていたときは、提起することができます。
Cは窃取の事実を知らない、善意の特定承継人ですから、Aは、Cに対して占有回収の訴えを提起することができません。

なお、Aは所有者でもありますので、所有権に基づいて返還を請求できるかどうかは、別の問題です。
そこでは、即時取得や、盗品の回復請求の規定が問題になります。
占有の訴えと、所有権に基づく請求は、区別して考えましょう。

以上により、アとウが正しく、正解は1です。

条文を丁寧に読んでいれば(そして具体例に置き換えることができれば)、そのまま答えが書いてあります。
民法の学習では、条文の一語一語を丁寧に読むことを習慣にしましょう!