司法書士試験 民法は条文で解ける!

近年の出題傾向

今年もそうでしたが、民法条文そのまま、もしくは、そのままではなくても、条文の内容が頭に入っていれば、正誤判断ができる選択肢が多く出題されているように思います。
民法改正があってから、その傾向が強まった、という気がします。その分、午前の部は、やや解きやすい傾向が続いているのではないでしょうか?
作題者の立場に立って見ると、とくに改正された内容を出題する場合、間違いのない(出題ミスとならない)問題を作るためには、条文そのものをベースにして作題する他ない、ということだと思います。

おすすめ民法学習方法

1)テキストを読む(テキストは自分に合ったもので良いと思います)
2)記載事項(純粋に判例に関する部分は除く)は、必ず、六法で根拠の条文をあたる
3)「周辺の」条文も読む → このとき、判例付きの分厚い六法よりも、デイリー六法などのコンパクトな六法の方が、周辺条文全体に目が行きやすいです
4)記憶の整理は、条文をベースにして行う(条文を繰り返し読む)
→ 条文を根拠とした記憶があると、試験本番中、「確信を持って」正誤判断ができます。
→ 「確信を持って」正誤判断ができる肢が増える → 実際の得点もアップします。
→ 会社法の学習にも通じると思います。私の場合、「表で覚えた記憶」よりも、「条文の記憶」の方が、よほど力になりました。

番外編(憲法について)

憲法はもちろん判例主体の出題になりますが、それでも必ずといってよいほど、条文ベースの選択肢も出題されます。
できないと後悔しますので、試験直前にはテキストを復習するよりも、憲法の条文だけを2~3回繰り返し読むことをお勧めします。

今年の主な条文ベースの出題

第3問(番外編 憲法)
ア 公金を公の支配に属しない慈善事業に対して支出することは、憲法上禁じられている。
→ 〇 憲89条
イ 国の収入支出の決算は、全て毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
→ 〇 憲90条
ウ 内閣は、国会の議決に基づいて設けられた予備費の支出について、事前にも事後にも国会の承諾を得る必要はない。
→ × 憲87条

第4問(後見等) 
ア 成年被後見人が成年後見人の同意を得てした不動産の取得を目的とする売買契約は、行為能力の制限を理由として取り消すことができない。
→ × 民9条
イ 成年被後見人が養子縁組をするには、成年後見人の同意を得ることを要しない。
→ 〇 民799条、738条

第6問(無権代理)A無権代理人、B本人、C相手方
ア Cは、Bに対し、相当の期間を定めて、その期間内に本件売買契約を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、Bがその期間内に確答しないときは、追認したものとみなされる。
→ × 民114条
イ Bが本件売買契約を追認した場合において、別段の意思表示がないときは、本件売買契約は、その追認の時から効力を生ずる。
→ × 民116条
ウ 本件売買契約の締結時において、Aが成年被後見人であったときは、Aは、Cに対して民法第 117 条第 1 項による無権代理人の責任を負わない。
→ 〇 民117条
エ Bが、Aに対して、本件売買契約を追認した場合であっても、Cが当該追認の事実を知らないときは、Cは本件売買契約を取り消すことができる。
→ 〇 民113条2項
オ Aが、自己に代理権がないことを知りながら、本件売買契約を締結した場合であっても、Aが代理権を有しないことをCが過失によって知らなかったときは、Aは、Cに対して民法第 117 条第 1 項による無権代理人の責任を負わない。
→ × 民117条

第8問(囲繞地通行権)
ウ 民法第 210 条の規定による囲繞地通行権が認められる場合の通行の場所及び方法は、通行権者のために必要であり、かつ、囲繞地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
→ 〇 民211条

第9問(所有権の取得)
Aの所有する甲動産とBの所有する乙動産とが、付合により、損傷しなければ分離することができなくなった場合において、甲動産の方が主たる動産であるときは、その合成物の所有権は誰に帰属しますか。
学生:イ Aに帰属します。
→ 〇 民243条
他人の動産に、自らは他に材料を提供しないで工作を加えた者が加工物の所有権を取得するのはどのような場合ですか。
学生:エ 工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときです。
→ 〇 民246条
Aの所有する甲液体とBの所有する乙液体とが混和して識別することができなくなった場合には、その合成物の所有権は誰に帰属しますか。
学生:オ 甲液体と乙液体について主従の区別が可能かどうかにかかわらず、混和の時における価格の割合に応じて、AとBとが共有することになります。
→ × 民245条、243条、244条

第10問(共有)甲土地、A、B、Cが3分の1ずつ共有
イ 甲土地につき共有物の分割の裁判を行う場合には、裁判所は、Aに債務を負担させて、B及びCの持分全部を取得させる方法による分割を命ずることもできる。
→ 〇 民258条
ウ Cが所在不明である場合において、Aが甲土地にその形状又は効用の著しい変更を伴う変更を加えようとするときは、Aは、裁判所に対し、Bの同意を得てその変更を加えることができる旨の裁判を請求することができる。
→ 〇 民251条
エ AがBに対して甲土地の管理費用の支払を内容とする金銭債権を有する場合において、BがDに甲土地の持分を譲渡したときは、Aは、Bに対してその債権を行使することができなくなる
→ × 民254条

第11問(担保物件)
ア 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
→ 〇 民297条
イ 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、債務者の総財産について存在する。
→ × 民321条
ウ 動産質権は、設定行為に別段の定めがない場合には、質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保しない。
→ × 民346条
エ 不動産質権者は、設定行為に別段の定めがあっても、その債権の利息を請求することができない。
→ × 民359条

第12問(留置権)
Aを賃借人、Bを賃貸人とするB所有の甲建物の賃貸借契約の期間中に、Aが甲建物についてBの負担に属する必要費を支出し、Bからその償還を受けないまま、賃貸借契約が終了した事例について、考えてみましょう。この事例において、Aは、Bに対し、必要費償還請求権を被担保債権として、甲建物について留置権を主張することが考えられますが、Aが裁判手続外で留置権を行使した場合には、必要費償還請求権の消滅時効の進行に影響を及ぼしますか。
学生:ア はい。Aが甲建物を留置している間は、必要費償還請求権の消滅時効は進行しません。
→ × 民300条
Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、甲建物について有益費を支出し、これによる価格の増加が現存するときは、Aは、Bに、有益費を償還させることができますか。
学生:イ はい。Aは、Bの選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができます。
→ 〇 民299条
Aが、留置権に基づいて甲建物を留置している間に、Bに無断で、第三者に甲建物を賃貸したときは、それによって留置権は当然に消滅しますか。
学生:ウ はい。留置権は、当然に消滅します。
→ × 民298条

第13問(先取特権)
ア 一般の先取特権者は、不動産について登記をしなくても、不動産売買の先取特権について登記をした者に優先して当該不動産から弁済を受けることができる。
→ × 民336条
イ 同一の目的物について共益の費用の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
→ 〇 民332条
ウ 一般の先取特権者は、債務者の財産に不動産と不動産以外の財産とがある場合には、まず不動産から弁済を受けなければならない。
→ × 民335条
エ 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。
→ 〇 民331条
オ 不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
→ 〇 民340条

第14問(動産質)
ア 質権者は、質物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、被担保債権の弁済に充当することができる。
→ 〇 民350条、297条
ウ 質権者は、その権利の存続期間内において、質権設定者の承諾がなくとも、質物を第三者に引き渡して、当該第三者のために転質権を設定することができる。
→ 〇 民348条
エ 質権者は、質権者による質物の使用について質権設定者の承諾がなく、かつ、目的物の保存のために質物の使用の必要がない場合であっても、質物の使用をすることができる。
→ × 民350条、298条

第15問(根抵当権)
出題はすべて条文に書かれている内容についてのものです → 詳細は省略

第18問(請負)
ア 目的物の引渡しを要する請負契約においては、報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。
→ 〇 民633条
イ 目的物の引渡しを要する請負契約においては、請負人が仕事を完成した後であっても、その目的物の引渡しが完了するまでは、注文者は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができる。
→ × 民641条
ウ 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人は、仕事を完成した後であっても、報酬の支払がされるまでは、注文者の破産手続開始を理由として請負契約を解することができる。
→ × 民642条
エ 請負人が注文者に引き渡した目的物の品質が請負契約の内容に適合しない場合には、その不適合が注文者の供した材料の性質によって生じたものであり、かつ、請負人がその材料が不適当であることを知らなかったときであっても、注文者は、請負人に対して、履行の追完の請求をすることができる。
→ × 民636条
オ 請負契約が仕事の完成前に解除された場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
→ 〇 民634条

第19問(委任)
ア 受任者は、委任者の許諾を得なくとも、やむを得ない事由があるときは、復受任者を選任することができる。
→ 〇 民644条の2
イ 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用の償還を請求することができるが、支出の日以後におけるその利息の償還を請求することはできない。
→ × 民650条
エ 受任者の利益をも目的とする委任については、その利益が専ら受任者が報酬を得ることによるものであるときであっても、これを解除した委任者は、受任者の損害を賠償する義務を負う。
→ × 民651条
オ 委任の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
→ 〇 民652条、620条

第20問(養子)
イ 養子となる者が 15 歳未満である場合において、その父が親権を停止されているときは、養子となる者の法定代理人による縁組の承諾について、当該父の同意は不要である。
→ × 民797条
ウ 特別養子縁組が成立するまでに 18 歳に達した者は、養子となることができない。
→ 〇 民817条の5
オ 普通養子縁組の当事者の一方が死亡した場合において、その後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
→ 〇 民811条

第21問(未成年後見)
ア 未成年者に対して最後に親権を行う者であっても、管理権を有しない場合には、遺言で未成年後見人を指定することはできない。
→ 〇 民839条
イ 未成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、職権で未成年後見人を選任することができる。
→ × 民840条
エ 家庭裁判所は、法人を未成年後見人に選任することができる。
→ 〇 民840条

第22問(限定承認)
ア 限定承認者は、受遺者に弁済をした後でなければ、相続債権者に弁済をすることができない。
→ × 民931条
イ 民法第 927 条第 1 項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、相続財産について特別担保を有する場合を除き、残余財産についてのみその権利を行使することができる。
→ 〇 民935条
ウ 限定承認をした相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
→ 〇 民936条
エとオも、条文ベースの出題ですが、ややマイナーな条文と思いますので、省略

第23問(遺言)
イ 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることもできる。
→ × 民975条
ウ 受遺者は、遺言者の死亡前であっても、遺贈の放棄をすることができる。
→ × 民986条
オ 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が特別の方式によってした遺言は、法定の期間内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
→ 〇 民976条