令和7年度認定考査解答例

例年は、合格者発表後の法務省の「出題の趣旨、基準点」などを見てから解答例を作成しています。
今年度はそれよりも前に、このブログ記事にしていますので、あくまで私の現段階での解答例です。
例年(ここ数年間)に比べて、ずいぶん解きやすいというか、まっすぐな問題の感じがします。
金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求、代理、代物弁済、消滅時効、保証の、基本的な(過去問にもよく出た)主要事実をきちんと復習していますか?という問題だと思います。
もしもYの代物弁済の主張が抗弁にならないことが示唆されておらず、それを抗弁として答案を構成してしまうと、とたんに合格が難しくなるように思いますが、本問題では、それをはっきり避けるように誘導してくれています。

第1問

登場人物
X:金銭(100万円)の貸主
A:Xの長男、Xの代理人として、Yと金銭消費貸借契約を結ぶ
Y:上記金銭の借主

原告Xの主な主張
1)Yの返済がない、返せ

被告Yの主な主張
1)代物弁済契約をしたので、債務は消滅している
2)消滅時効が成立したので、債務は消滅している

解答例

小問(1)訴訟物と個数
金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権、1個

小問(2)原告Xの請求の趣旨
Yは、Xに、100万円を支払え

小問(3)Xの請求原因の主要事実
金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求
① Aは、令和2年4月10日、Yに100万円を貸し付けた。
② Aは、①の際、Xのためにすることを示した。
③ Xは、①に先立つ令和2年4月5日、Aに①の代理権を与えた。
④ AとXは、①に際し、弁済期日を令和2年6月10日と定めた。
⑤ 令和2年6月10日は到来した。

小問(4)Yの抗弁の主要事実
消滅時効により債務は消滅しているとの抗弁
1⃣ 令和7年6月10日は経過した。
2⃣ Yは、令和7年8月22日、Xに対し、①の債務につき、消滅時効を援用する意思表示をした。

小問(5)Xの再抗弁の主要事実
債務承認による時効の更新があったとの再抗弁
⓵ Yは、令和7年8月10日、Xに対し、①の債務を認め、返済猶予の申入れをした。

小問(6)Yの代物弁済をしたとの抗弁の可否
Yは代物弁済の抗弁を主張することはできない。
代物弁済契約は諾成契約であり、債権者と債務者間の合意により、契約は成立する。
しかしながら、判例では、債務消滅の効果は、所有権移転登記手続きを含む、給付の完了により生じるとされている。
本件においては、Y自身が所有権移転登記手続きをしていないことを認めており、事実、登記もY名義のままである。
よって、Yが、代物弁済によって債務が消滅しているとの主張をすることは、当然にできない、ということになるから。

小問(7)和解条項の穴埋め問題
ア 認める
イ 支払う
ウ 被告は期限の利益を失い、100万円から既支払金額を控除した残額を一括して支払う
エ (4)の支払義務を免除する
オ 別紙記載の建物に関する紛争について、本和解条項が、当該紛争に関する権利義務関係に影響しないことを相互に確認する

第2問

設例(略記)
1 Xは、令和5年10月12日当時、甲自動車を所有していた。
2 Xは、令和5年10月12日、Yに甲自動車を130万円で売った。
  売買代金の支払期日を令和5年11月6日と定めた。
3 ZとXは、同日、2の売買代金債務について、Zが連帯保証する契約を書面でした。
4 Xは、令和6年4月15日、YとZを被告として、2の売買代金返還請求訴訟を提起した。
5 認定証書士Pは、YとZの訴訟代理人に就任した。
6 YとZは、130万円の売買代金債務について、令和5年11月6日に弁済したと主張している。
  Pは、Xが作成したとされる領収書を証拠として申出した。

解答例

小問(1)原告Xの請求の趣旨
YとZは、Xに対し、連帯して130万円を支払え

小問(2)
上記1の事実は、Xの請求原因の主要事実となるか?
ならない
売買契約の対象は自己所有物に限られず、いわゆる他人物売買も有効であるから
上記3の事実は、Xの請求原因の主要事実となるか?
なる
保証契約が書面でなされたことは、保証契約成立の要件であるから(民446条2項)

小問(3)
書証の証拠説明書には、文書ごとに番号を付した上で、文書の標目、作成年月日、
ア 作成者
イ 立証の趣旨
を記載する。

小問(4)
Xは、いったん領収書(書証)の成立の真正について争わないと自白したが、その後撤回して成立の真正を争うことができるか?
争うことができる
自白の拘束力は主要事実についてのみ生じる。
Xがいったんした書証の成立の真正についての自白は、補助事実についての自白であるので、撤回して再び争うことができるから。

小問(5)司法委員の役割
司法委員は、簡易裁判所の民事事件において、裁判官に代わって和解の補助や審理への立ち会いを行い、社会経験や専門知識に基づく助言を与え、事件の公正かつ円滑な解決を図る役割を担う。

第3問

債務者Yと保証人Zが、それぞれ130万円を自分が負担した、と主張した場合について
司法書士Pは、Y及びZの訴訟代理人として、事件を受任し続けることはできない。
130万円の弁済をどちらが負担したかについて、主債務者Yと保証人Zの主張が異なっており、今後求償関係での双方の争いが顕在化することが想定される。
利害が相反する双方の訴訟代理人を受任し続けることは、倫理上許されないから。