司法書士試験 苦手の克服(1)~前提となる名変登記の要否~

はじめに

司法書士試験受験勉強をしていると、「どうしても苦手だなー」という分野、項目が複数できてくるものと思います。
私にもたくさんありました。それをそのままにしておいて(要するに捨ててしまって)、合格できるほどには甘くない試験です。
受験勉強中に何とか努力して克服したものもありますし、結局克服できず、司法書士になってから「そういうことだったのかー」とようやく分かったものもあります。
今回は、前提登記としての住所氏名変更登記の要否、についてです。

前提登記としての住所氏名変更登記の要否

司法書士試験において、ここが分かっていないと(たとえば記述式問題において、必要な登記を抜かしてしまうと)、合格するのは非常に難しいです。
司法書士になった後も、ここが分かっていないと、例えば、不動産売買決済での所有権移転登記において、大変なトラブルを引き起こしてしまいます。
→ だからこそ、試験でも繰り返し問われるし、間違えると減点が大きい。

まずは現在の登記名義人に着目しましょう

(1)所有権移転登記
通常は、登記義務者(売主)だけが、現在の登記名義人として登記簿に載っています。
ただし、持分移転などの場合に、登記義務者(売主)だけでなく、登記権利者(買主)も登記名義人として登記簿に載っていることもあります。
目的  所有権移転
原因  〇年〇月〇日売買
申請人 権利者 買主 ← 新たに登場
    義務者 売主 ← 現在の登記名義人

(2)抵当権抹消登記
登記権利者(不動産の所有者)、登記義務者(銀行などの抵当権者)ともに、登記名義人として登記簿に載っています。
目的  〇番抵当権抹消
原因  〇年〇月〇日解除
申請人 権利者 所有者 ← 現在の登記名義人
    義務者 抵当権者 ← 現在の登記名義人

前提としての住所氏名変更登記の要否の大原則

司法書士として実際に登記権利者と登記義務者の双方から登記の依頼を受ける(共同申請の)場面をイメージしましょう
・新たに登場する人 → 何も考えず、現在の住所を確認(本人確認)するだけで良いです。
・すでに登記簿に載っている人 → 現在の住所氏名を確認し、登記簿に載っている住所氏名と比較します!
→ 住所氏名が変わっている(例:引越、結婚)場合は、登記権利者であろうが、登記義務者であろうが、今回やろうとしている登記をする前に、前提登記として住所氏名変更登記をします!
それだけのルールです。

今、登記を申請している者(登記権利者でも登記義務者でも)が、確かにその本人であって(現在の住民票等)、登記簿に載っている者とも同一であることを、登記記録上も一致させる(住所氏名変更登記をする)趣旨です。

前提としての住所氏名変更登記を要しないとする例外

1)所有権以外の権利(買戻権を含む)の抹消登記の登記義務者(昭31.10.17-2370号)
2)所有権に関する仮登記の抹消登記の登記義務者(昭32.6.28-1249号)

例えば、抵当権抹消登記、地上権抹消登記、所有権仮登記抹消登記、などです。
上記(2)抵当権抹消登記において、抵当権者A銀行が、現在はB銀行と名称変更をしていても、「B銀行はもとはA銀行だったんだよ」という証明書(登記事項証明書)を添付すれば、A銀行→B銀行という名称変更登記をしなくても、直接、A銀行名義の抵当権の登記を抹消できるわけです。
→ 実務においてよくあります。

昭和31年の大変古い通達ですが、「すぐに消そうとしている抵当権などの名義をわざわざ変更登記させるのは煩雑だから勘弁してやろう」という趣旨です。
でも、所有権は最重要権利なので、この省略は認められていません。

今回の話とは少し別の話となりますが、相続登記においても、登記簿上の住所氏名と死亡時の住民票の住所氏名が異なっていても、相続登記の前提としての住所氏名変更登記は不要です。
もちろんその点は楽ではありますが、登記簿上の住所→死亡時の住所をつなげる証拠書類(戸籍の附票が典型例)は添付しなければならず、かなり昔の時代の相続登記をいまごろやる場合には大変苦労します。